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美ヶ原


・長野県茅野 中央本線茅野駅・松本駅よりバス
日本百名山 深田久弥 新潮文庫 p.262
花の百名山 田中澄江 文春文庫
[ご案内] RGより60分 [花・百名山] [八ヶ岳&山]

雄大な展望を持つ大草原。登山口は三城。車ではビーナスライン経由。
「美しノ塔」(下記参照)の鐘。野外彫刻展示の美術館がある。

 春の花    キンポウゲ、ナナカマド 
 夏の花   レンゲツツジ、ヤナギラン 
 秋の花 ミノコシギク、ヨツバカヨゴリ 


52 美ヶ原(2034E)「日本百名山」深田久弥 新潮文庫 P.262

 高原という言葉は、新村出博士の説によれば、明治以前の辞書には登録されていないそうである。タカハラと呼ぶ地名はあった。しかし今日私たちが言うところの高原は、多分西洋の地理学が入ってきて、プラトー又はテーブル・ランドの訳語として、登用されるようになったのだろうという。
 高原の語義もさることながら、高原の趣味もたしかに明治以後に起ったものである。それまでの日本人の自然観は、専ら南画風の林泉の趣に執着して、開濶な草原を愛した形跡は、芸術作品上にも見られない。封建時代が終って、自由な思想が拡がり、外国文学の自然描写や洋画の影響もあって、次第に高原に美を見出してきたのであろう。西洋人によって軽井沢が開かれたことなども、一つの素因かもしれない。
 その後登山が盛んになるにつれて、高原を愛する人も多くなり、やがて山と高原と並び称せられるようにさえなった。白樺という、それまでは雑木扱いされていた木が、ロマンティックな風景として役立ち、農耕牛馬の放し飼いの荒涼地が、牧場という新しい言葉で呼ばれ、遠くの山々がセガンティニの絵のように眺められるようになって、もはや高原逍遙は登山の大きな分野を占めてしまった。起りが西洋趣味であるから、高原という言葉が手擦れてくると、近頃はアルプという語が用いられ始めた。アルプの本来の意義は、スイスの高山山腹の夏季牧場だそうである。私たちはすぐ明るい太陽と、爽やかな風と、色さまざまな花のしとねと、牝牛の鈴の音とヨーデアを想像する。
 そういう高原の中で第一に挙げたいのが美ヶ原である。ここほどその条件にかなった所もないだろう。大体二千米前後の高度を保って豊かに起伏した原である。北アルプスの二、三の原(例えば五色ヶ原や雲ノ乎)を除いては、これだけ高い原はない。その高さに、広さを加えると、まさに日本一かもしれない。そのさまは尾崎喜八氏の「美ヶ原熔岩台地」にみごとに歌われている。

  登りついて不意にひらけた眼前の風景に
  しばらくは世界の天井が抜けたかと思う。
  やがて一歩を踏みこんで岩にまたがりながら
  この高さにおけるこの広がりの把握になおもくるしむ。
  無制限な、おおどかな、荒っぽくて、新鮮な、
  この風景の情緒はただ身にしみるように本原的で、
  尋常の尺度にはまるで桁が外れている。

 全く、桁が外れて広い。美ヶ原の範囲はどこまでを指すのか知らないが、南の茶臼山から北の武石峰まで、広濶な山上の草原が、果てしもないように続いている。さあ、どこでも勝手にお歩きなさい、といった風に続いている。
 その広さに、更に眺めを付け加えよう。以前松本平の人々は、美ヶ原を東山、北アルプスを西山と呼んだそうだが、その西山の最重要部分、槍、穂高の連嶺を、東山からまざまざと眺めることが出来る。その豪快な山容を鑑賞するのに、最も適した距離である。その眺めに呆然としてから、眼を他へ移すと、別の多くの山々が我も我もと名乗りをあげてくるのに接するだろう。
 昔は美ヶ原という名はなかった。二百七十年前の元禄時代に放牧場として利用したという記録があり、その後も農閑期の牛馬の休養場になったことはあったが、人間の楽しむ美しい原として登場したのは、昭和になってからだという。山麓の住人の山本俊一氏がこの高原を愛して、道を開き、粗末な笹小屋をたてた。それが今の山本小屋の基である。以来訪れる人が次第に多くなり、現在では多すぎるという歎息さえ生じてきた。故山本翁を記念した「美ノ塔」が建ち、その裏面に前記尾崎善八氏の詩が刻んである。
 しかしその詩人も、今日の原の滔々たる俗化を歎き、「雄大な展望だけは昔に変らぬ朝夕を、私の詩が吹きわたる風の中でその挽歌を歌っている・・・・記している。それでは、五月さなかというのに人ひとり出あわなかった美ヶ原を知っている私は、幸福者だったと言わねばなるまい。
その時私は、白樺と牛や馬の散在と花ざかりの小梨とで絵のように美しい三城牧場から、原の一角に登り、金の風に吹かれながら武石峰までさまよい歩いて、この高原の高さと広さと眺めを、全く孤独の中に、存分に味わったのであるから。


花の百名山 田中澄江 文春文庫

特に項を設けて説明してはいないが、霧ヶ峰の項に若干載っている。


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